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グループ発表「NHK問題から導出される公共放送についての意義」

2005617日(最終版2005722日)

橋本努ゼミ

NHK班 八町、山岸、松崎、川畑、高崎

 

 

目次

0−はじめに

1NHKの公共性

 −a 公共放送の定義

 −b 二つの公共性

2−情報公開

 −a 番組改竄問題

 b イラク戦争報道

 −c 組織改革と情報公開

3−受信料から見るNHK改革

 −a 各国の公共放送の財源

 −b NHK受信料義務化と低価格化

4−コンテンツ

 −a 現在の番組

 −b 改善の具体例

5−終わりに―民営化との比較

 

 

0−はじめに

 番組制作費使い込み、番組改竄などさまざまな不祥事が相次ぎ、各メディアでも頻繁に取り上げられ、市民による受信料の不払いが激増したNHK問題。他メディアからは「某国営放送」と揶揄され続け、NHK自身は「みなさまの公共放送」と自らを位置づけているが、今回の問題によってNHKの実情が明らかになった感がある。海老沢前会長の独裁体制、機能不全のコンプライアンス…広く市民から受信料を徴収している組織にとって、この責任能力のなさはあきれるばかりだ。

 ただ、公共放送そのものについて、存在する意義は十分ある。よって以下では、5つの観点からNHKの実態・現状を検証するとともに望ましい公共放送の姿、望ましいNHKの姿についての提案を論ずることにする。

 

 

1NHKの公共性

 

民間放送でもなく国営放送でもなく、「公共放送」と自らを名乗るNHK。コマーシャルを流さずに受信料のみでその費用を賄っていることから、そこに公共放送らしいにおいは感じることができる。しかし、厳密な意味で公共放送とはどういったもので、現にNHKがどの程度公共放送としての性質を帯びているかはあまり定かではない。ましてや、政治家による番組の放送前検閲やデジタル放送を中心とした国策への加担といった事実を見ると、NHKは国営放送ではないのかと疑う声も上がるだろう。ここでは改めて「公共放送」の定義を見直し、現在のNHKがそれを満たしているかを検証したい。

 

1a 公共放送の定義

まずひとついえることは、テレビやラジオを放送するために必要な電波というものが、公共財であるということだ。つまり、民放や国営、公共放送といった形態がどうであろうと、放送そのものは公共的性質を持つといえる。それは受信機器を持つすべての人が、等しくそして簡単に放送による情報を得られることから明らかである。だが、それならばわざわざ「公共放送」という区分を設けるNHKの言い分は通らない。ではなぜNHKが公共放送たりえるのだろうか。放送法第2章の日本放送協会の項目にはNHKの目的がこう書かれている。

第7条 協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように     豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び委 託協会国際放送業務を行うことを目的とする。」

公共の福祉のために―それが放送法で定められるNHKの公共性といえる。では、具体的にNHKが民放にはない公共性を保有しているといえるものは何なのだろうか。

・前述のようにコマーシャルを流さないことで、財界に対しタブーなき放送ができる。

・ジャーナリズムの持つ権力に対する監視役としての役割がはっきりしており、政界に対してもタブーなき放送ができる。

NHKは営利主義のために偏向する可能性のある民放の補完的機能を果たし、人びとの社会に対する認識形成の判断を助ける。

・受信料を払う人びとはNHKにとってスポンサーであり、NHKに対して意見を言う権利を有する。さらにそれは、人びとの社会への参加を促すことになり、民主主義への関心を高めることができる。

以上の四点が日本においてNHKが独自に要する公共性と考えられる。

さて、現状のNHKにおいてこれら公共放送に必須とされる要件が満たされているかといえば、残念ながら答えはノーである。第一に、不偏不党の原則が守られていない。権力や産業界との癒着があちこちで見られるからである。後ほど詳しく紹介するが、昨今のいわゆるNHK問題にもこの癒着が引き金になった問題が多数ある。ではなぜこういった問題が起こるのかといえば、それは市民と権力との間で、放送法に対する「公共性」の解釈の違いがあることから来るものと思われる。

 

1b 二つの公共性

「公共性 ―広く一般に利害を有する性質のことであるが、日本では公共事業などで公共性の名のもとに環境破壊が生じたこともあり、権力性の代名詞として使用されることもある。本来は、基本的人権を発展させる住民の共同性のことである。」(有斐閣経済辞典より)

公共性という言葉は見るものの視点によって意味が異なるものである。ここでは放送法に対する公共性の解釈の違いを、二つの公共性―「市民的公共性」と「国家的公共性」から述べようと思う。

市民社会の論理からすれば、「公共性」とは市民的公共性のことを指す。市民的公共性とは、国家が市民によってつくられたものであるということから、公共的な意思決定は市民によって形成されるべきとする視点に立つ公共性のことである。市民的公共性からみた公共放送は、市民が作り上げていくべきものであり、人びとの知る権利を満たすべく不偏不党の原則に則った真実を伝えていかねばならない。一方、権力側の論理からすれば、「公共性」は国家的公共性のことを指す。国家的公共性とは国家が市民に与えた公共性であり、そこで公共とされるものには概して国家に不利益だと思われるものは含まれない。国家的公共性をもつ公共放送では、国民に対して権力が国家に対する認識や理解を深めさせることを放送の公共性としてしまうことになりがちである。現在のNHKに対する権力側の認識も後者の国家的公共性に基づいたものであるから、さまざまな形での権力の介入が起こってしまうと考えられる。また、その行為は放送の不偏不党性に反することになることから、市民側の視点では認められるものではない。

 

不偏不党の原則を有することからすれば、公共放送であるNHKが本来持つべき公共性とは市民的公共性でなくてはならない。そして、NHKが市民的公共性に基づいた真の公共放送になるには、市民に対し透明性の高い組織を作らねばならないし、さらには広く市民が参加することは欠かせない。人びとの民主主義に対する意識を高める効用もあるこの真の公共放送を支えていくのは、私たち市民なのである。

 

 

2−情報公開

                 

NHKでは報道内容や会長人事に政治が色濃く反映されてきた。ここでは2001年の番組改ざん問題とイラク報道についてケーススタディからNHK問題の根底にある組織の隠蔽体質とそれを改革する方法を探る。

 

2a 番組改竄問題

 2000128日は日本にとって戦後60年目の開戦記念日であり、同時に戦争犯罪が女性の手で裁かれる「民衆法廷」が開幕した歴史的記念日となった。この法廷を教育テレビで取り上げたNHKは外部の圧力に屈し、自己規制を含めて番組の改竄を行った。発端はNHKエンタープライズ21のプロデューサーが番組制作会社ドキュメンタリージャパン(以下DJ)のディレクターに番組制作を依頼したことに始まる。「従軍慰安婦」制度は日本のメディアではタブーになっているテーマであるため企画がNHKで通るはずがないと思われたが、ジャーナリストとして興味をそそられるテーマだったから引き受けた、とDJの坂上香ディレクターは語った。企画書作成の段階ではNHK、エンタープライズ、DJの三者の関係者の間でタブーであってもこの問題を番組で取り上げるという意欲が高まっていたが、政治情勢やメディア事情から見れば勇気ある態度であったと言える。しかし、1月末の放送開始が迫った119日、それまでNHK教養部、エンタープライズ、DJの三者で行われた合同試写では意見の違いもなく順調に進んでいたのに、NHK教養部の吉岡部長がかなりの番組改善を要求した。その後、NHKではDJ(つまり製作者)抜きの上層部による局内試写が行われ、DJの坂上ディレクターに番組の改編を要求した。その作業を断った彼女はその後、断腸の思いでDJを退職した。このNHK教養部の動きの背景には、右翼団体が、番組放送中止を求める要望書を提出したり、放送3日前に約50人がNHK放送センターの建物に乱入したなどがある。また、安倍、中川両氏の介入も噂されている。

 日本のメディアでタブーになっている問題をNHKが放送できない。問題は、そのような意欲あるプロデューサーやディレクターがジャーナリズムの観点から正しいと思うことを貫けない組織の隠蔽体質、内部でこっそり済ましてしまおうという事なかれ主義である。下の者が理想を求めて製作したものを上層部はいとも簡単に右翼の顔色を伺った番組に作り変えてしまった。内部告発すればクビになってしまう。だから皆見て見ぬ振りをする。そしてそれが許される組織がNHKなのである。

 

2b イラク戦争報道

 市民団体「放送を語る会」によるNHK「ニュース10TBS「ニュース23」テレビ朝日「ニュースステーション」を比較した内容分析では、ニュースの情報源や項目、それぞれの放映時間数、取り上げ方などから、NHKのニュースは最も戦争について肯定的かつ親政府的であるとした。例えば開戦初日の放送を見てみると、NHK手島龍一ワシントン支局長のリポートは「開戦に踏み切ったブッシュ大統領の意図がフセイン政権の壊滅とイラク国民の解放を目的としたものだ」と繰り返し、戦争の大儀が開戦前に主張していた大量破壊兵器の排除からいつの間にか変わったことには触れていないのに対し、TBSの金平茂紀ワシントン支局長は「軍事より諜報を重視するブッシュの体質が如実に」とリポートし、テレビ朝日の田端正記者は「戦争を仕掛けるブッシュ政権の力の前にはメディアもプレーヤーになってしまう恐さがある」と報告するなどアメリカの政策をジャーナリズムの観点から鋭く批判している。その他にも、日本のメディアの情けない珍事として注目されるのが、アメリカのバグダッド攻撃を前に放送も新聞もフリージャーナリストを除く全マスメディアがイラクから退去したことである。他国はアメリカの各局、イギリスBBC、フランス国営放送など大手の放送局のジャーナリストは現地に残った。しかしNHKはさらに情けないことに、現地のフリージャーナリストと臨時契約して生々しい情報を送った各民放と異なり、現地協力者に電話で聞いた内容を報道するに留まった。「NHKの取材したものでなければ放送しない」という権威主義が、受信料で運営している公共放送の責務を果たさず私たちが得る情報の質を落としているのは言うまでもない。

 ここでも問題は、NHKという組織の権威主義である。政府寄り、アメリカ寄りであると視聴者も感じてしまうようなバランスの悪い報道の仕方を、公共放送を謳うNHKが平然とやってのけている。

 

2c 組織改革と情報公開

 さらに、この他にも視聴者が憤慨するような不祥事はたくさん起こっている。局長クラスの受信料横領などである。では、私たち市民がもう一度NHKを信頼できるようになるにはNHKがどう変わるべきか。具体案を3点あげ、この章を終わることにする。

・隠蔽体質の組織を外部から批判する第三の監視機関を作る。

これは民放のトップや市民団体からの代表者で形成されることが望ましい。なぜなら、従来のコンプライアンスはNHK内部との関係が強く(推進委員がNHK側の訴訟代理人を勤める弁護士である)、適正に機能していないからだ。

NHKの番組でこの監視機関がNHKの様々な組織体質の問題を提起し、視聴者でそれを共有できる状態にする。そして、各民放にNHK批評番組を定期的に制作することを義務化する。

これは内容からして視聴率が良いとは思わないが、民放も含めた市民が支える公共放送だという意識は市民の間で高まるであろうし、各民放にとってもその責任を確実に果たしているといった点でイメージアップにつながることから、そうデメリットがあるものでもなかろう。

NHK自身は製作される様々な番組の透明性のために制作費や製作期間などを事細かにテロップとして流す。

HPで公開するのもいいが、受動的な視聴者にそのような情報を能動的に流すことによって視聴者の番組を見る姿勢も変わってくると思われる。さすがに番組中は邪魔なので、番組の最後にスタッフロールのように流すべきであろう。

 

 

3−受信料から見るNHK改革

 

NHKの受信料はカラー契約で二か月分が2790円である(訪問集金の場合)。現在NHK受信料の支払い拒否・保留件数が5月末で約97万件に上っている。支払拒否増加のペースこそ落ちてきてはいるものの、続出する不祥事や「隣が払っていないのになぜうちだけが払わなければならないのか。」という不公平感によって今後とも支払い拒否を選択する人は増えるだろう。このような状況下で各国の公共放送の財源形態を調査するとともに、NHKの受信料に関しての改革を提案したい。

 

3a各国の公共放送の財源

 

@ 受信料のみで賄われているもの
NHKはこれに該当する。

・イギリス:BBC

テレビ所有者から徴収する受信料。もっとも、イギリスでは「TVライセンス制度」を設け、テレビやビデオデッキなどを所有する為に許可証を購入するというシステムをとっている。「受信許可料」と呼ぶこともある。視聴者は郵便局で1年間有効の受信許可証を買うという仕組みで、月単位での購入も可能。現在のところ国民の約98%が払っているとのことであり、75歳以上は免除される。無許可受信者には最高1000ポンドの罰金が課される。受信料は物価の変動等を考慮して政府が決定する。国際放送の財源は全額が国庫からの交付金。この制度により、政府や企業の力に屈しない公正な放送を行うことができ、また視聴率等の市場経済の流れに影響を受けず教育放送や福祉放送等が行えるということで、この考えは世界中に広まり、イギリスにならって受信料制度を採用している国も多い。

・フィンランド:YLE

・デンマークTV2

・スウェーデンSVT

・ノルウェーNRK

 

A 受信料+広告料で賄われているもの
韓国KBS(韓国放送公社)

受信料徴収を電力会社の検針員が行うというユニークな制度をとっている。基本的にイギリスのBBCや日本のNHKを見習って作られた。

ドイツARD1ZDF

2次大戦後、イギリスをモデルに放送局が再編された。西ドイツは公共放送体制、東ドイツは国営放送体制をとったが、1990年の東西ドイツの統一に伴い旧西ドイツの放送体制がそのまま受け継がれた。一定の時間帯に限ってテレビ・コマーシャルが放送されている。

フランスF2F3La5emeARTE

フランスの公共放送はFrance Televisionという株式会社が担っている。政府が100%株主であり、運営・財政面等で政府からの強い統制を受ける。テレビ所有者から「テレビ受信機使用権料」という名目でお金を徴収している。

イタリアRAI

テレビ・ラジオの所有により受信料が課せられるが、日本と同様に罰則も無ければ延滞利息も無いのが特徴。

アイルランドRTE

アイスランドRUV

スリランカSLRCITN

 

B 交付金+広告料で賄われているもの

ニュージーランドTVNZ

かつては受信料により運営していたが、財政状況悪化により1987年以降は商業放送形態のTVNZ(TelevisionNewZealand)となった。TVNZは公共放送時代のニュージーランド放送協会のテレビ部門を引き継ぎ、1988年政府の規制緩和政策により株式会社組織となる。株式は100%政府所有で、ニュース、ドキュメンタリー、ドラマなどの総合編成で2CHで広告をいれて放送している。

かつては受信料制度を導入していたが極度の赤字を抱えた為、政府がほぼ100%株主の商業放送形態となっている所が多い。

ベルギーRTBF

スペインRTVESEPI

 

C 交付金や寄付金などで賄われているもの

カナダCBC(カナダ放送協会Canadian Broadcasting Corporation)

当時増大していたアメリカラジオの影響を懸念する動きがあったことにより、カナダ政府が1936年に設立。

インドネシアTVRI

国内にある5つの民放局が広告収入の12.5%TVRIに納めることにより賄われている。5つの民放局はTVRIが放送する国家行事、定期ニュースを中継する義務を負う。

アメリカPBSCPBPTVNPR

 

世界各国には以上のような財源を持つ公共放送がある。しかし、財源に広告料を含めると特定の企業との癒着や番組内で広告を出している業界への問題提起ができなくなり公共放送としての活動ができなくなると考えるので我々の意見には採用しない。同様に交付金についてもこれを主な財源とすると政府との関係が深まることが予想されるので公共放送としての正規の財源とするにはあまり相応しくない。さらに活動を継続するにはやはり常時安定した収入が必要である。よってやはり公共放送は国民からの受信料徴収によってなされるべきである。では現状と同じ受信料徴収によるNHK運営という方針においてどのような改善点が見出されるだろうか。ここで提案するのは受信料の義務化と低価格化である。

 

3b  NHK受信料義務化と低価格化

 

A.受信料支払いの義務化

NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した世帯は受信料の支払いを義務化する。こうすることで支払いに関して受信設備を有する世帯間の不平等はなくなる。不払い世帯には罰金を課す。テレビ普及率は9割以上といわれているので、テレビを持たない世帯はNHK職員に実際に住居内を見せてテレビがないことを証明する。公共性を高め、視聴者全体の利益に貢献している公共放送であるので、受信設備を持つ世帯から集金することには合理的な根拠がある。さらに訪問集金人制度も廃止するべきである。この曖昧な制度によって集金人の不正や地域住民とのトラブルが発生し不利益を被っていたが、制度自体を廃止して口座引き落としや振込用紙を利用することによりこの類の問題は解消され、さらに今まで集金業務を委託してきたNHK自体の金銭的負担も減り、その分国民への更なる還元が期待できる。

 

B.受信料の低価格化

低額な受信料となれば支払いが義務化されても抵抗は少なくなるだろう。約6700億円の予算で運営されているNHKだが、このほとんどが受信料によってまかなわれている。しかし果たしてこの予算は有意義に使われているのだろうか。これほどの金額が本当に必要だとは考えられない。現在のNHKは民放と比べてコスト意識の欠如が指摘されており明らかに予算の縮小は可能であると考える。例としてNHKの使用するタクシー券が挙げられる。2003年度にNHKが全国で使ったタクシー券の総額は43億円である。これをNHK職員12000人で割ると1人平均で年間35万円となる。これは明らかに削減できる部分である。さらに、過剰な番組制作費やタレント起用に対する報酬など公共放送として必要のない部分をカットしていくことによりNHK運営に際した支出自体を縮小でき、それをまかなうべき受信料も低額に抑えることができる。また受信料支払い義務化自体によっても受信料の低額化は実現される。日本の世帯数が約4800万世帯(総務省より)で事業所数は約650万であるのでテレビ普及率を90%とするとNHKが公表している契約件数は3700万(20055月末)。現在NHKは一ヶ月に約1400円の受信料支払いを求めているがこれに応じているのは本来支払うべき世帯の7割程度なのである。仮に受信料を一ヶ月に1400円と固定して受信料支払いを義務化すると単純に考えても受信料収入は3割増加する。NHKにこれ以上の収入は必要ないので、これを調整するために受信料自体の値下げが実現するのである。

 

以上のように2点の改善を加えることによって受信料に関して現在のNHKよりも無駄がなくなり、より公共放送を行う組織として相応しい姿になると考えられる。

 

 

4−コンテンツ

                                               

4a 現在の番組

 これまで述べてきたことから、現在NHKで放送されている番組の中で不要であるか、または改善が必要な番組が出てくるということは明らかだ。まず、一日に15回以上放送され、NHKの代名詞ともなっているニュースについてであるが、これも改善すべきだろうと思う。

・民放でなされているような主体的なコメントは避け、

・話題を選り分けて掘り下げることはせず、より広くたくさんの話題を提供することに専念し、

・解説が必要なときも辞書的な意味や定義、関連法の紹介程度にとどめ、どうしても深い解説が必要ならば多元的に外部コメントを紹介する。

以上の4点についてここでは改善点としてあげるが、不偏不党のニュースというのは非常に難しいものであり、視聴者の判断力に依存する形でこのような形態をとることにした。次に、バラエティーやドラマ、さらには囲碁将棋といった娯楽番組について、改善点をあげたい。

・むやみやたらなタレント起用はやめるべき

民放と違ってNHKは視聴率を気にすることがないために人気取りの必要はなく、タレント起用にかかる予算も節約できる。節約した分は他の番組を充実させるか、受信料値下げを行うことができる。

・ある程度流行を無視してでも多ジャンル化を図り、年齢、性別、地域性等に対応した多種多様なコンテンツ作りを目指すべき

公共性の概念からすれば、公共放送とは等しく人びとに役に立つ放送でなくてはいけないからだ。視聴者の意見を広く取り入れて、民放では取り上げられにくいジャンルも扱うことが望ましい。

・自局番組の宣伝は時間も予算も無駄だと言わざるを得ないことから、やめるべき

・政府やその他機関、また企業に肩入れするような宣伝番組もすべきではない。

自局番組の宣伝をする時間や予算があるならば、それを他の目的に充てたほうがずっと効率的だ。また、不偏不党の原則から、政界・財界の宣伝は認められない。例えば、愛・地球博に関する特別番組などは、国策に加担しているとしか思えないものである。

暫定的にあげたこれらの改善だけでも、ある程度の枠が空くことになると思われ、今度はその空いた枠にNHKに相応しいコンテンツを加えねばならない。

 

4b 改善の具体例

 

A.市民参加型番組

 これまで述べてきた理由から、NHKに相応しい番組の中で市民が参加できる番組は欠かせないものである。以下に例を挙げておこう。

@メディアに関する市民団体の情報提供。 

これは市民のメディアリテラシー(media literacy:メディアを利用する技術や,伝えられた内容を分析する能力のこと)向上に有効である。

A視聴者が直接参加する番組、討論番組。 

例えるならば、「しゃべり場」の年齢を不問にした番組だろうか。

B視聴者が提案、作成する番組。

・視聴者から公募した人物が、時間を与えられたなかで好きなことを喋る、プレゼンする番組。テレビでの講演会のようなもので、ジャンルは不問。

・学生の手作り番組。メディアに対する興味・関心を養う上で、若年層にアピールすることは不可欠であろう。

C.民放や新聞等他メディアの批評・解説番組

「こどもニュース」の大人版のようなもので、客観的に情報を捕らえるためには必要なものである。

これら案についても完全に不偏不党かどうかは保証ができない。前述のチェック機能によって、さらに市民からの意見によって、望ましい形態が確立される。

 

B.グローバル化

・増加する国際ニュース

 今日、テレビにおける国際ニュースの重要性は大きい。政治や経済、安全保障といった、今日の国際社会の基本的問題が各国間の相互依存の関係に組み込まれていること、貿易の発展によってモノの流通が明らかに全世界を市場にして行き交っていること、そして、何より、航空路の発達や海外旅行の一般化、さらに労働力の国境を越えた移動。これらによって、ヒトの国際的交流が、民衆レベルの日常的な大移動となっているといった基本的背景がある。国際ニュースにおいて、テレビの特性(映像、音声、同時性、参加型)がよく発揮され、バックグランドにある文化・文明の違いを乗り越えてさまざまな事件・事故や現象が伝えられる上で、テレビは大きく貢献したといえる。

 

NHKのテレビ国際放送

 NHK19356月に国際放送を開始。現在では、数個の衛星を動員して、ほぼ世界全域でNHKのテレビ国際放送が見られるようになっている。しかし現状では、その視聴者の大部分は、在外邦人と、日本に特別の関心がある一部の外国人に限られているといえる。 国際放送は、パソコン、インターネット通信、ブロードバンドの技術の発展を受けて、ネットによる音声や映像、あるいは文字、データなどの“放送類似”のサービスが普及すると見られる。技術をつかいこなす姿勢が、ボーダレスの放送の世界では、特に重要になっている。技術を誰が利用するのか、使いこなすのか、という問題が重要である。アジアに絞って考えてみても、国家という枠組みの下で成長した在来型の放送局は、ボーダレスの時代をうまく取り込むことができないことが多い。

 

・有料と無料での競争

 CNNは、ケーブルのサービスでの財源方式を衛星による国際放送にも利用し、放送ではCMも流すが、基本的には有料テレビとして運用している。これに対して、イギリスのBBCワールドワイド社は,BBCの傘下とも言えるが、ある程度の独立性を有し、少なくとも財源は、受信許可料の国内放送とは峻別し、商業収入(主として広告)とパートナーシップによって、経営されている。BBCは、こうして、旧い“公共放送”のしがらみと英国という国家の枠組みをでようとしている。

 

・ニュース専門で24時間チャンネル

 代表的な例は、米・ジョージア州アトランタで1980年に誕生したCNNである。CNNのコンセプトは「ニュース専門局」だが、もう一つの要素は「24時間」である。アメリカが活動している朝、昼、夜は、アメリカの国内のニュースでも足りる。しかし、深夜となると、いつもニュースがあるわけではない。その空白を埋めるのが国際ニュースというわけだ。「NHKビジョン」は「24時間ニュースを国際放送に活用することで、日本から海外への情報発信の強化につながります。」としている。このことに、異論はない。日本の民間放送局は、資本関係のある新聞社や、地上波放送局の取材力と連携・マルチユースする形で効率的な事業関係をはかることで成長してきた。だが、NHKが本格的に参入すれば、大きな打撃を受けるであろう。まず、資金力、取材力に圧倒的な差がある。さらに、CMのために番組がカットされるというハンディもある。民放連の森氏は、「NHKがインターネットの利用者から対価を求めることは、公共放送の性格を変質させ、放送の根幹を崩すモノであり、認められない。受信料を財源として制作された番組のインターネット等への供給による収益については、NHKやその子会社の収益とするよりも、外部機関管理下で公的な資金としてプールし、放送の進歩発展や放送のコンテンツの流通促進に関する事業に充てる仕組みを構築すべきだ」と述べている。

 

・まとめ

 NHKによる新サービスにおいて問題となるのは、ブロードバンドでの映像配信など、その中間領域における新サービスの展開をどのように位置づけるかという点である。この領域においても、NHKにサービスの開拓の先導的役割を求めていくべきなのか。それとも、これまでの放送サービスの領域とは一線を画して、できるだけ市場競争に委ねていくべきなのか。私たちは、これらの問いに対して、公共放送として、国際放送の拡大、無料放送をしていくべきであると考える。

 

 

5−終わりに―民営化との比較

最後にNHKに関して、我々とは異なった意見を持った人の意見の紹介をしたい。NHKの改革案を考えたとき初めに頭に浮かぶのがNHKを民営化してしまえばよいという考えだろう。公共機関の改革を行おうとしたとき、NTTなどの機関が思い浮かぶからだ。NTTの前身である電電公社は19854月からNTTに変わり、民営化された。NTTの民営化によってもたらされた効果としては、@事業範囲、事務所、投資等企業活動の制約が大幅に緩和されたこと、A資金調達手段の多様化が可能になったこと、B職員、給与、労働関係に関する統制が大幅に緩和されたこと、などが上げられる。NHKにも同じように、民営化によるメリットはあると考えられるが、それらは何であるか。メディア評論家粟津孝幸氏は自書「NHK民営化論」の中で、民営NHKへの提言を行っている。

「@NHKは民営化すべきである。その理由の一つは、受信料を払う、払わないの不平等感を解消するためである。民放のように広告収入による商業放送になってしまえば、払う、払わないの議論さえなくなる。もうひとつの理由は、公共放送ということで、その活動範囲が狭められてしまうことにより、デジタル時代の新たなサービスを提供していく技術力を持ちながら、それが生かされずに終わってしまうことを恐れるからである。

ANHKが民営化された際の収入形態は視聴料をベースとした完全有料放送制をとるべきである。視聴料の水準を現在の受信料と同じ水準にすれば、これまで受信料を払ってきた視聴者にとっては何の負担増にもならない。また訪問集金はやめ、すべて銀行口座からの自動引き落としにすることにより、受信料収納にかかるコストを削減できる。その分だけ、組織は効率化し、視聴料を低く抑えることも可能になる。

B民放といえども免許事業であり、その公共的な性格は強いとして、総合放送による編成を義務付けられている。NHKが民営化されても、編成のあり方がそれまでからまったく自由になるというわけではなく、「教育チャンネル」を引き続き存続させることを郵政省が義務づけることは、民営化と相反することにはならない。」

そもそも粟津氏の議論には肯定的な側面ばかりを見て公共放送NHKがなくなった日本の放送制度に目を向けていない気がする。公共放送は必要である。公共放送の意義は前述のとおりである。

@の受信料不払いについては、受信料の平等性という観点から言えば確かに民営化によって受信料の不平等感はなくなるが、不平等感をなくすだけなら民営化をする必要はない。現行の受信料という形のままで国民の反発をできるだけ少なくして徴収率100%を目指すこともできるからだ。それにはまず受信料の値下げが必要である。今の値段のままで100%徴収しようとするのはいささか無理がある。また、技術力に関してだが、技術力を持っていながら今のままではその技術力が生かされないであろうという粟津氏の意見は、確かにもっともである気はするが、そのようにしてNHKが民営化したら、公共性を持った放送は存在しなくなってしまう。また、「NHK民営化論」が書かれた当時、NHKの不祥事が明るみに出ていなかったことを考えると、技術力をより高めようとするためにNHKの事業規模を拡大する、というよりはNHKのコスト意識を高めるために財源である受信料値下げを行った方がよいと思われる。不祥事についてはすでにふれられたことと思う。

Aの有料放送方式の導入であるが、この方式では、従来の放送メディアが持つ情報伝達の即時性、同時性および家庭内への低コストでの浸透能力という、基本的情報の平等な提供に適した諸特性が失われることになる。すべての放送を有料放送方式とすることは、視聴者の利益の低下につながる恐れが強い。

Bでは、粟津氏は公共性が損なわれることを懸念して教育チャンネルを存続させることについて触れているが、それだけでは足りない。公共放送として期待される役割は教育だけにとどまらず、緊急災害時の報道、手話のニュース、外人向けの番組などさまざまなものがあり、何より大事なことは民放よりも質の高い番組を提供するということである。

 

 NHKは今後、市民の信頼性を取り戻すためにも、また公共放送としての存在意義を確立するためにも、抜本的な改革に着手せねばならないだろう。現状のままでは日本における公共放送というものが形骸化してしまう。しかし、公共放送は市民にとって必要なものである。NHKと市民の双方が努力して理想の公共放送を築いていくこと、それは日本の真の民主主義の芽生えにつながるのではないか―、少々大げさだが、そうも言えるのではないだろうか。

 

参考文献及びHP

・「NHK民営化論」粟津孝幸著

・「テレビの憲法理論」長谷部恭男

・「ジャーナリズムの条件1職業としてのジャーナリスト」責任編集 筑紫哲也

岩波書店 20052

・「ジャーナリズムの条件2報道不信の構造」責任編集 徳山喜雄

岩波書店 20053

・「NHKの正体 受信料支払い拒否の論理」

『週刊金曜日』別冊ブックレット 20054

・「NHK―問われる公共放送―」松田浩

岩波新書 20055

・「21世紀のマスコミ02 テレビは21世紀のマスメディアたりえるか 放送」

編集委員 桂敬一[代表] 大月書店 19978

・「メディアと情報は誰のものか」渡辺武達

潮出版社 20004

・「NHKはもういらない!」行宗蒼一

三一書房 198210

・電子政府 法令データ提供システムより放送法

http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

・総務省郵政事業庁 調査委員会 「放送政策研究会」(第5回会合)議事録

http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/japanese/group/housou/00919z02.html

MSN-Mainichi INTERACTIVE カバーストーリー

デジタル放送:公共放送とは何か 改めて注目されるBBC

http://www.mainichi-msn.co.jp/it/coverstory/news/20050421org00m300094000c.html

・特殊法人情報公開検討委員会第22回会議議事概要

http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/tokuho22.htm

YamaguchiJiro.com052月:公共放送と政治〜NHK番組改編問題〜

http://yamaguchijiro.com/archives/000216.html

・日本放送協会−Wikipedia

http://ja.wikipedia.org/wiki/NHK

NHKオンライン

http://www.nhk.or.jp/

NHK札幌放送局

https://www.nhk.or.jp/sapporo/

Galleria21a

http://www.kawachi.zaq.ne.jp/kojiasano/html/ron21a.html#MOKUJI

・テレビの21世紀 岡村黎明 岩波新書

・デジタル時代の公共放送 音 好宏

・「検証-日本の組織ジャーナリズム-NHKと朝日新聞」川崎泰資・柴田鉄治著 岩波書店

AIR21 2005.4「公共放送と政治の圧力/戦争報道に見るNHKBBCの相違点」

・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8

すべてを疑え!! MAMO's Site <ジャーナリスト坂本 衛のサイト>

http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/index.html

NHK受信料拒否の論理 本多勝一 朝日新聞社

AERA 20052.14

AERA 20054.18